はじめに|ローランド株式会社について山本 まずはローランド株式会社様について教えてください。井手 ローランドは、1972年に創業した電子楽器メーカーです。創業した当時から海外市場をターゲットとしています。現在は海外での売上が全体の約90%を占め、世界中のアーティストにご愛用いただいております。山本 経営面では今どういったフェーズでしょうか。井手 コロナ禍での電子楽器の巣ごもり需要もあって、業績は堅調に推移しています。2009年以降、市場の変化やリーマンショックの影響から4期連続で赤字となったことがあるのですが、その時期に就任した2代前の社長が、2014年にMBOと非上場化を決断して改革に取り組み、2020年に東証一部(現プライム市場)に再上場しました。上場後の2021年、次いで2023年に、それぞれ3か年の中期経営計画を発表し、さらなる飛躍を目指しています。SAP S/4HANAへの移行の背景村木 まず、今回のプロジェクトの背景から伺わせてください。移行前は2008年からSAP ECC 6.0を利用されていたと伺っています。井手 そうです。そもそも2008年にERPを導入したのは、J-SOX(内部統制報告制度)に対応することが目的でした。グループ内で会社ごとに異なっていたERPと業務プロセスを統一しようということで、SAP ECC 6.0を導入しました。知名度の高いSAPという基幹システムが入ることに対する現場からの期待は大変高かったです。 ただ、いざ導入するにあたって、業務プロセスをSAP標準に合わせるということと、カットオーバーを期限通りに実施するというところで大変苦労したようで、それは私も間近で見ていました。藤原 それまでは自社の業務に合わせてカスタマイズしたフルスクラッチのシステムを使用していました。ですから、業務を「標準に合わせる」という「Fit to Standard」の部分で、情報システム部がかなり大変な思いをしたというのは、当時の部長からも聞いています。村木 2008年当時、スクラッチシステムからSAPというERPにリプレイスするにあたって、現場レベルから否定的な声はあったのでしょうか。井手 私は当時、現場に近いところにいましたが、現場視点だとやはり一番重要なのはUIや使い心地ですから、実際に導入が始まると、使い心地の変化に対する驚きや戸惑いはありましたね。 例えば今までできていた一括取り込みができないとか、フルスクラッチシステムでは自動化されていた業務プロセスが、SAP標準プロセスだと自動化されていないとか、そういった部分に対してはやはり抵抗があったと思います。村木 SAPも最近はかなりユーザフレンドリーになっていますが、私も昔、導入後に現場に伺った際、「使いづらいじゃないか」とユーザーさんから怒られた苦い経験があります。ECCが主流だった時代には、そういった驚きや戸惑いが、どの企業さんでも見られたのだろうと思います。山本 今回、ERPをSAP ECC 6.0からS/4HANAにリプレイスされたわけですが、その背景を教えてください。井手 経営的な観点で背景にあったのは、ビジネスのコア部分でDXが進んでいないという問題でした。 2008年のECC 6.0導入までは紆余曲折ありながらも成長を続けていましたが、リーマンショックの影響を受けて4期連続の赤字とかなり業績が落ち込み、MBOによって会社を立て直す必要が生じました。立て直しに向けてスピード感を持って様々な手を打つ中で、製品開発やクラウドサービスといった直接利益に関わる即効性のある投資が優先されて、ITへの投資はかなり後回しにされていました。ITの中でも、売上成長に直結する顧客向けのシステムやサービスに関しては、グローバル規模での統合などによるDXが、再上場に向けた成長の裏で進みました。その反面、社内向けのシステムであるERPは、リプレイスにも維持にも大きなコストがかかることもあって、手をつけられていないのが実情でした。 その結果、2020年に売上規模は倍になって再上場を果たした一方で、システム面でレガシーな問題が多く残ってしまいました。 我々がその問題にぶつかったのは、再上場を果たした上で次の中期経営計画を策定するという中で、さらなる成長のために何をすべきかを考えるタイミングでした。ERPや周辺の業務プロセスが古いことによって、新しい技術やSaaSへの対応可能性などに対して不安要素や制約が多く、コアのビジネスプロセスの将来的な計画が立てられなくなっていました。 加えて、周辺システムを新しくしても、コアな業務を担っているERPが古いためにインテグレーションできず、思うような効果が得られない、といった問題も顕在化していました。例えばロジスティクスを改善するという場面でも、基幹システムが古いせいで、最新のシステムとインテグレーションできないという問題が出てきていました。また、工場のオートメーションをしましょう、という場面でもやはり古いERPに引っ張られて実現できないという問題がありました。 簡単にまとめると、ビジネスのコアとなるERPおよびその周辺のコアな業務プロセスが古いということが、成長のボトルネックになっていました。 いよいよ基幹システムに手をつけないと、次の成長に向けて加速できない、という状況になり、まずは「ERPを確実にアップグレードした上で周辺のDXを推進することにより、今後の更なるビジネス成長に向けてフレキシビリティとスケーラビリティを確保すること」が必要となったわけです。藤原 経営視点での成長に対する課題もそうですが、現場からの視点で、コミュニケーションの負のスパイラルを断ち切りたい、という意識もありました。 当時、システムの利用部門から要望があがったとしても、情報システム部門からは、ERPが古いからインテグレーションできない、その上アップグレードは高額だからタイミングが読めない、という回答しか得られないような状況でした。これによって、やりたいIT活用ができない上に、相談しても意味がないという状態で、情報システム部門と利用部門との間でも、情報システム部門の中でも、コミュニケーションの負のスパイラルが回り続けていました。プロジェクトを成功に導いた3つのポイントPoint1|正直なコミュニケーションで得た経営層の理解村木 私も、基幹システムの刷新がコストだと捉えられる風潮は根強くあると感じています。売上成長に直結する取り組みと比較すると経営層からの理解を得づらく、後回しにされやすい傾向にあるのだろうと思います。その点、今回のリプレイスでの経営層や関係者への協力のあおぎ方や、刷新という方針に持っていくために取り組んだことなどがあればぜひお聞きしたいです。井手 経営層に対しては、「現行システムは古いから、さらなる成長のためには置き換えるしかない」という現実を、正直に、丁寧に伝えることで理解を得られたと考えています。 おっしゃる通り、2021年の時点ですぐに理解を得てリプレイスに踏み切れたというわけではありません。やはり経営層の視点に立つと、置き換えなければならないクリティカルな理由がありませんでした。実は、我々はMBOの際に、ERPを第三者保守に切り替えていました。ですから古いバージョンでも2030年までは使えることにはなっていて、保守期限切れも理由にはなりませんでした。 そのような状況の中、2023年4月に取締役会で議題にあげて、一発で稟議を通しました。これができたのは、「情報システム部による完璧な計画・準備」と「ローランドらしい正直なコミュニケーションのカルチャー」があったからではないかと考えています。 経営層に話すにあたって、完璧な準備をしたという自負はあります。生じうるエラーへの対処方法やそれにかかるコストまで明確にして、プロジェクトのプランを具体的かつ精緻に引きました。 プロセスを含めて、プロジェクトに経営層が懸念するような大きなリスクはなく、リスクの回避まで考慮したスケジュールも見えていることを明示しました。それによって、ダウンタイムを含めて1年間でプロジェクトを完遂できると納得してもらえたのだと思っています。 この説得のために、確実かつ安全な基幹システムの刷新を目指して、ローランドに合った最適な手法を2年ほどかけて調査/準備してきました。同時に、ノウハウを持った人がいないため人を雇うなどして、プロジェクトの開始後にプロジェクト推進に集中できるよう、それ以外の様々なレガシーな問題も事前に解決していました。 経営層に対してコミットした点はいくつかあります。 まずは期限です。先ほどもお話しましたが、「2024年11月21日に必ずカットオーバーします」ということを約束しました。また、それに伴って7日間ほど工場などがすべて止まるダウンタイムが発生するという話も同時にしました。もちろん経営層から損失に関する懸念は出ました。ですが、1年以上前から計画しているので、1週間早く物を作って、1週間早く渡して、ダウンタイムに備えることは十分にできると、計画を明確に話すことで理解してもらえました。 計画時点で透明性の高いプランだったことで、経営層の協力を得られたのだと思います。 またローランドには、先にお話したようなリスクや難しさも含めて、正直に話すことを許してくれる風土があります。話を聞いてもらえるという信頼感があったからこそ、私自身、今後の成長のためにはERP刷新が必須であるという事実を、素直に上申することができました。 これまでお話した2点、ERPが古く成長のボトルネックになっていたこと、コミュニケーションの負の連鎖が生まれていたことに加えて、リスクがもう1つありました。第三者保守に切り替えたことでシステムの継続利用は可能と思われていましたが、当時使用していたオンプレで必要なハードウェアが見つからない可能性が高く、事業継続の上でリスクがあることも判明しました。 これらの事実を正直に経営層に伝え、理解してもらった上で、ERP刷新を行うことを決断してもらえました。ローランドが培ってきた正直なコミュニケーションの文化も、今回の成功には非常に重要だったと思っています。Point2|オーナーシップを発揮できるプロジェクト体制村木 経営層に対する説明の部分では、プロジェクト体制もひとつポイントになると思います。特に自社導入や自社でのコンバージョンという立て付けに対して、 経営層や社内への説明は、かなり多くの業務部門の方々のご協力が必要だったのではないかと思っています。その部分の周知やマインドの醸成は、どのように進められたのでしょうか。井手 おっしゃる通り、今回のプロジェクトはコンサルを使わずに自社導入の形で完遂しました。 あえてコンサルを使わずにプロジェクトを推進した背景には、長年ERPを最新化しなかったことによる、社内でのロストノウハウがあります。プロジェクトの目的はSAPのアップグレードそのものではなく、その後のビジネス成長ですから、まずはプロジェクトの参画者全員が自分ごととしてノウハウを身につけ、先につなげるための足がかりを作ってもらう必要があると考えました。そのためには、コンサルを入れずに自社メンバーがオーナーシップを持った上でプロジェクトに参画し、学習し直す機会にするべきだと思いました。 フィージビリティの面では、基本的に自分たちが未経験の領域や答えを持ち合わせていない領域、コンサルの方が経験のある領域では、コンサルを使った方がいいと思っています。ただ今回、我々はストレートコンバージョンでの移行を考えており、現行の業務プロセスは変わらないため、自分たちで実施可能だと考えました。村木 我々も、コンサルが力を発揮する領域のメインは導入自体というより、より高度なプラスの付加価値を生み出す部分であるべきだと思っていまして、今のお話には納得感があります。 コンサルが入った導入プロジェクトや移行プロジェクトでも、特にクラウド移行が進む昨今では、実際にシステムを利用するユーザー企業側のオーナーシップが非常に重要だと考えています。いかにユーザーの方々がオーナーシップを持って理解した上で動いていただくかが、導入・移行の成功やその後の効果の最大化に繋がっていくということは常々感じています。 一方で、オーナーシップを持って動いてくれるメンバーをアサインして体制を組むのは実際難易度が高く、多くの企業様が困っている点でもあるかと思います。井手 プロジェクトマネージャーの私とプロジェクトリーダーである藤原の2名が、部門ごとに2名ずつの担当を、直接指名で設けていました。そこでは、業務や業務のシステムに精通しており、ERPを含めたシステムやその刷新に対して思いを持っている人を選びました。そういった思いがある方は、やはり協力的で、自発的にも動いてくれます。各部門でのニーズやテストは彼らが基本的にハブとなって取りまとめたり、指示を出したり、教育をしたり、積極的に動いてくれました。 結果的に、オーナーシップを持ってプロジェクトを推進できる人を担当者として指名できたという点も、プロジェクトの成功にとっては大きかったかなと考えています。プロジェクト推進の中で問題が生じた際にも、担当者が自分ごととして考えてくれたことはかなり大きかったです。村木 お二人がとても強力なリーダーシップを発揮されたプロジェクトだったということを、お話を伺って感じているところです。藤原 私がローランドに入る前の会社でもSAPを使っていたところはありますが、やはりこのオーナーシップの部分は、他社と大きく違っていたと思います。 プロジェクトでは、結合テストやシナリオテストに当たり、業務プロセスを明確にする必要がありますが、ドキュメントの未更新や、そもそも存在しないものもあり、更新や、新規作成を余儀なくされました。しかし、プロジェクトメンバーが中心となり、十分なオーナーシップを発揮いただくことで、かなりの枚数にわたる業務プロセスをすべてドキュメントとして作り直してくれました。 例えば、財務部と生産部など複数部門が関与するようなプロセスは、手順もあるので連携が必ず必要です。一般的に、情報システム部が旗振り役を担う状況でしたが、今回は両部門が直接調整を行ったうえでテストを実施し、予定通り完了させることができました。こうした点の積み重ねが、プロジェクトのスムーズな成功に直結したと思っています。 ここまでオーナーシップを持って行動してくれるケースは、以前勤めていた企業でもなく、良い意味で大変驚きましたし、頼もしく感じました。井手 大規模なプロジェクトになると、PMやPLはメンバーを信じるしかないと思っています。すべてに目は届かないし、細かい部分まで気にし始めたら何もできないですし。そこでメンバーとして任せられるのは、やっぱり思いがある人ですよね。能力がある程度あれば、あとは自分ごととして考えられる人であれば任せていいと考えています。Point3|プロジェクトの土台となった「ローランドらしさ」村木 ERPの話はもちろんですが、ここまでのお話で、御社の人材育成や人に対する向き合い方が多く伺えたように思います。ある程度現場の方々に任せられるような風土、環境、カルチャーが御社では整っている、ということでしょうか。井手 まさしくカルチャーだと思っています。ローランドは、やはりベンチャー企業のルーツを持っています。各社員の自発性から様々な製品が生まれたり、音楽のジャンルが作られたりもしています。変な統制がかかっていないからこそ起きるビジネスの発展を会社として大事にしているので、ローランドでは、どの社員であっても社長に話をするチャンスがありますし、社長も聞いてくれます。責任を持って「こうしたほうがいいと思います」と発言している人に対して、ダメと言う人は社内にはあまりいません。組織として本当にフラットなコミュニケーションができて、業務上の縦割りはありますが、それをまたぐ必要のある時は比較的簡単にまたげる。そういった社風も意識した上でのプロジェクト体制だったので、うまくいったのだと思います。村木 私自身も、自ら仕事に熱中するとか、仕事に対してのコミットメントを自発的に持つといったことはとても大事だと考えています。御社ではそうした部分がカルチャーとしてでき上がっていて、本当に素晴らしいことだと感じています。 我々もまだベンチャー企業のくくりで、人的資本経営のご支援はもちろんですし、弊社自体でも同じように、人と向き合う取り組みを積極的に行っています。人を信じるとか、自発的に仕事がしたいという意識を持てるとか、主導権を持って動いてもらえる環境づくりが、企業の成長には一番大事なのだと思います。井手 振り返ってみて、ローランドの風土を活かした、まさに「ローランドらしい」プロジェクトだったと改めて思っています。現場側はオーナーシップを持って進めましたし、経営層側は正直なコミュニケーションを求めており、その上で判断してもらえるという信頼関係がありました。このような体制だったので、月次で定量的な進捗確認はしていたものの、実際には進捗状況が随時プロジェクトメンバーにもベンダーにも経営陣にも同じ形で迅速に共有されていて、問題が生じた際にもその都度話がされていました。そう考えると、結果的に月次の報告会はあまり意味がなくて、その日に生じた課題について検討するだけ、という感じでした。プロジェクトメンバー全員が状況を追い切れていて、安心できる場にはなっていたと思います。村木 本当に「ローランドらしさ」だと感じています。ERPの導入や刷新時には、システムだけでなく組織や人、スキル定義なども変わってきます。プロジェクトには方法論や定型はありますが、各社のカルチャーに合ったプロジェクトの進め方、導入アプローチを考えることが必要だと思っています。コンサルタント目線でも、ユーザー企業が自分たちで作り上げていく、そこに対してコンサルがサポートとして入るというのがあるべき姿だと思います。そこが自然にできていたのが、今回のプロジェクトの成功要因だったのだろうと感じました。 御社の導入成功はもちろん素晴らしい成果ですが、それに加えて御社の企業風土や理念も伝わる、本当に素敵なお話だと思います。井手 ローランドには、すべてのビジネス活動に関するスローガンがあります。「創造の喜びを世界にひろめよう」「BIGGESTよりBESTになろう」「共感を呼ぶ企業にしよう」の3つです。これらのスローガンは社内に確実に根付いていて、今回のプロジェクトはそれを具現化したものだったと考えています。この事例から企業風土や理念が伝わったのであれば、本当に嬉しいことだと感じています。 実際、導入事例はテクニカルにどうやって進めたかという話になりがちですから。村木 プロジェクトの話が大変有意義で勉強になったのはもちろんですが、組織としてどのように人に向き合うか、その中でどのように人が本気で仕事に向き合えるかというところは、弊社の理念やミッションにも通ずる部分があって、個人的に大変興味深く伺いました。 一口にERP導入・移行の成功の秘訣といっても、ただテクニカルに進めればいいというわけではなく、結局最後は「人がやる」という点にフォーカスされていて、とても素敵なエピソードですね。藤原 やはり、仕組みがあってシナリオ通りやれば完遂できるというのも、テクニカルには事実かもしれませんが、結局プロジェクトを動かすのは人ですから、コミュニケーションが大事だと思っています。 実は今回のプロジェクトは、マルチベンダーかつフルリモートで実施しています。それもあってプロジェクト開始時に細かいルールを定義し、コミュニケーションロスを最小化しました。その結果として、人のつながりを良い形で保って、コミュニケーションを取りつつ最後までプロジェクトを完遂できたのかなと考えています。SAP S/4HANAへの移行で得られた効果山本 S/4HANAに移行して、現時点で感じられている効果についてお聞かせください。井手 基幹システムによる定量的な効果というのは、他の要因の効果に埋もれてしまって測りづらいですが、定性的な効果として言えるのは、将来のプランニングの自由度が上がったことですね。これもできる、あれもできる、その上でどれを選ぶか、柔軟に考えられる。これは、現場から見ても経営層から見ても大きな効果だと思っています。村木 システムのみならず、プロジェクト推進の中から得られたものも、大きかったのではないでしょうか。井手 そうですね、大きく3つあると考えています。1つは社内でノウハウを蓄積できたこと、2つ目は次のステップを踏みやすくなったこと、もう1つはコミュニケーションの向上です。 全員が「自分ごと」として、任せた/任せてもらったという信頼の中でプロジェクトを進めていく中で、ロストしていた社内のノウハウを学び直せたと思っています。 また、今回のプロジェクトでは開始時に経営層にコミットした内容をきちんと実現したことで、今後よりチャレンジングなことを経営層に提案する土台もできたと思っています。 さらに、結果として難しいプロジェクトを期限内・予算内に終わらせ、初期安定稼働も実現したということで、個人の自信はもちろん、社内でのお互いの信頼度とかコミュニケーションの質も、プロジェクトを通じてかなり上がったと思っています。 このような効果は、数年単位で必ず大きな結果に結びつくと思っています。藤原 私も、次のステップが踏みやすくなったことは感じています。またプロジェクト完了後、部門間のコミュニケーションがかなり活発になっています。情報システム部のメンバーも、他部門のIT関連プロジェクトに参画させていただくなど、積極的に部門の垣根を越えて活動しています。そういったチャレンジングなコミュニケーションを伴う活動の幅は、非常に広がっていると感じています。村木 プロジェクトを通して社内の風通しが良くなるという一面もあることは、非常に勉強になります。基幹システム導入がまだまだコストとしてネガティブに捉えられる風潮の中、そういった波及効果や、ERPによって組織が変わる、人が変わるというのは、理想形に近いお話だと思います。今後のERP活用への展望村木 今後のERP活用については、どのような展望を持っていらっしゃいますか。藤原 現在ERPのデータが蓄積されてきている状況なので、そのデータの利活用が次に取り組むべき課題だと思います。例えばERPのデータは、今回ADF(Azure Data Factory)を通じ、Power BIへデータ活用ができるようになりました。 ERPのデータが、データソースの1つとして活用が可能な状態となりましたので、周辺のSaaSとの連携も含めて活用のシーンは益々増えてきています。これらをうまく活用することが今後の課題になると思っています。井手 我々はシステムに対する捉え方を変えようとしていて、新たに機能を加えるというよりは、システムによって本来の意味でのビジネス的な価値を実現するということに主眼を置きたいと考えています。ERPが関わるのはビジネスのコアの部分ですから、ERPの活用によって、末端で生じている200、300の問題がドミノ倒しのように片づくようなことがあると考えています。1つ目のドミノが何かを見極めることにも、ERPは活用できると考えています。おわりに|他社へのメッセージ村木 最後に、現在進行形でERPの保守期限切れ問題や刷新プロジェクトに苦労されている情報システム部の方々や担当者さん、あるいは先送りにして第三者保守への移行という決断をされている会社さんに向けて、成功体験を通じてのアドバイスやメッセージがあればお聞かせください。井手 アドバイスというのはおこがましいと思っていまして、我々もプロジェクトを進めるにあたって、他社さんの事例などに大変支えられてきました。ですから、自分たちがうまくいった時はお返しするべきだということで、このような事例発信も積極的に行っています。 ERPのプロジェクトは複雑ですし、経営層の説得も難しいと思います。しかし、現実をきちんと話して決断してもらうしかないんですよね。そのコミュニケーションがどこまでできるかが、プロジェクトの命運を左右すると思います。プロジェクトに関係する人すべてが歩み寄ることが必要です。導入や移行の手法は個々の会社さんや状況によってかなり異なると思いますが、このコミュニケーションに関する部分は、共通の課題でもあり、取り組めることであると考えています。山本 社内の風通しの良さやカルチャーが随所に出ていて、それらがプロジェクトの「完璧」といえる成功につながったのだろうと思います。弊社としても非常に学ぶところの多いお話でした。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。インタビューにご協力いただいた方々IT本部長/CIO 井手尚幸(いで なおゆき)様2001年ローランド株式会社に入社、国内及び国外の営業〜業務〜マーケティング部門を経験。2017年よりIT部門に異動、情報企画部長を経て 2025年よりIT本部長/CIOに就任。IT部門ではグループ会社ごとに異なっていたWebサイトのデザイン統一、CMSやCRMなどのシステムのグローバル統合、製品と連携するクラウドサービス構築などの全社プロジェクトを主導。IT本部 情報システム部 部長 藤原了英(ふじわら りょうえい)様1998年に日立ソフトウェアエンジニアリング(現日立ソリューションズ)株式会社入社後、ローランド ディー.ジー.株式会社、有限責任監査法人トーマツを経て、2019年にローランド株式会社に入社。同社IT部門では社内インフラや基幹システムを担当するグループのリーダーを経て、2025年より情報システム部長に就任。今回のテーマである基幹システム最新化プロジェクトをプロジェクトリードとして主導。インタビュアーOsaka Digital Hub所長/SAP事業責任者 村木翔(むらき しょう)BIG4にて、多数のERP導入プロジェクトのマネジメント・リード経験を誇る。データドリブン経営への転換に向けた、ERPを活用したビジネスプロセスならびにシステム刷新に強みを持つ。Anfiniでは執行役員を務め、SAP事業の責任者としてプロジェクトをリードしつつ、大阪にてAI事業などを含むテクノロジー領域での事業開発に取り組む。広報 山本理桜(やまもと りおん)2023年にミス実践コンテストで準グランプリを受賞。その後、フジテレビ「めざましテレビ」への出演をはじめ、テレビ・ラジオ・雑誌など幅広くメディアで活動。現在はAnfiniにて、広報として法人様の取材や社内イベント運営などに取り組む。