現代の企業は「デジタル技術を活用して業務の進め方を効率化したい」「より効率的に、ミスなく働きたい」と強く願っています。こうした流れは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉に象徴され、単なる便利なツールの導入にとどまらず、会社の仕組みや文化そのものを変革する大きなチャレンジとなっています。その中で「クラウドERP」というシステムが注目を集めています。従来主流だったオンプレミス型ERPとは何が異なり、なぜ今、多くの企業がクラウドERPを選んでいるのでしょうか。この記事では、オンプレミス型とクラウド型ERPの違いを詳しく解説するとともに、クラウド移行のメリット、クラウドERPの導入事例や最新トレンドも紹介します。*ERPの具体的な製品について知りたい方はこちら➤ ERPパッケージとは?業務改革と効率化を実現するERP3大製品を徹底解説!1. ERPとはERPは「Enterprise Resource Planning」の略で、日本語にすると「統合基幹業務システム」といいます。会社の『経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)』を、一元的に管理して計画的に使うことを目的に生まれたシステムです。 *ERPついてもっと知りたい方はこちら➤ ERPとは?システムの概要と導入メリットをわかりやすく解説主な業務領域ERPは会社の核となる様々な業務を統合し、会社全体の動きを見渡せる仕組みを作ります。 具体的には下記のような業務が対象です。 財務・会計:お金の流れを管理し、損益計算や支払いを正確に行う 人事・給与:社員情報や勤怠情報、給料計算を統合管理する 販売・購買:商品やサービスの注文・発注、価格管理する 生産管理:製造スケジュールや材料在庫を管理する 在庫管理:商品や材料の出入りを追跡し無駄をなくす これらの機能がつながることで、会社の情報を一元管理しデータの正確性と整合性を保つことができます。また、経営層にとってもリアルタイムに状況を把握し、迅速な意思決定が可能になるメリットがあります。最近は特にAIや分析ツールと組み合わせて、ERPがより賢く働くよう進化しています。たとえば、売上を予想したり、異常値を自動検知したりすることで、企業の成長をサポートしています。 *ERP×AIについてもっと知りたい方はこちら➤ ERP×AIの組み合わせが企業にもたらすメリットや課題とは? 2. ERPの提供方式〜オンプレミスとクラウド〜 ERPには大きく分けて「オンプレミス」と「クラウド」の2つの提供形態があります。 オンプレミスとクラウドの比較オンプレミスとは簡単に言うと、「会社が自分の建物やデータセンターにサーバーを置いて、自前でソフトを動かす」方式です。一方、クラウドは「ネットを通じて外部のサービスを利用する」形態で、サーバーやシステムの管理を自分で行う必要がありません。以下がオンプレミスとクラウドの比較表です。オンプレミスERPの課題 今まで主流だったのは「オンプレミス型ERP」です。この方式は、セキュリティの強さや、カスタマイズの容易さなどのメリットがあります。しかし、その反面で以下のような課題が存在します。 1. 高い導入コストと運用負担オンプレミスERPの導入では、社内に専用のサーバーやネットワーク機器を購入・設置するためのハードウェア費用、ERPソフトのライセンス費用、システム構築やカスタマイズ費用が発生します。また、導入時の設定支援やコンサルティング費用、従業員教育費用も加わります。このように、オンプレミス型ERPの初期費用は各要素を合計すると、数千万円から数億円に及ぶことが多く、特に大規模導入では更に高額になる傾向があります。加えて、これらの準備や設置に時間もかかるため、導入開始までにかなりのリソースが必要となるのが特徴です。2. 柔軟性・拡張性の限界オンプレミスERPは導入時のカスタマイズは容易な一方で、後から導入時に固めた設計・構成を大きく変えるのが難しく、会社の成長や事業環境の変化に伴う機能追加やプロセス変更に迅速に対応しづらい特徴があります。カスタマイズすると費用と工数がかさみ、変更のたびに業務が止まるリスクもあるため、「変化に弱いシステム」と言われます。3. バージョンアップ対応の難しさ 社会の法令や会計制度の変更、新製品やサービスの登場に合わせてERPも常に最新状態に保つ必要があります。しかし、オンプレミスERPの場合、アップデートは自社で計画し実行しなければならず、これが非常に手間とコストのかかる作業となります。 特に複数部門や拠点がある場合は、バージョンアップに伴い各部門の業務プロセスやカスタマイズ部分の影響を確認し、テストや教育を経て全社で同時に適用する必要があります。そのためスケジュール調整やテスト工数が膨らみ、担当者の負担はさらに大きくなります。 このようなオンプレミスERPの課題は、時代の変化に迅速に追随し業務改革を進める上での足かせとなってしまいます。オンプレミスERPは今の時代にマッチしにくく、「もっと簡単で柔軟に使えるERP」が求められてきました。そこで登場したのがクラウドERPです。 クラウドERPのメリット クラウドERPは、インターネットを通じて、必要な基幹業務システムを「サービスとして利用」する方法です。従来は社内サーバーや専門機器が必要だったERPも、クラウド型ではそれらの設備を自社で持つ必要がありません。利用者は、パソコンやスマホからインターネット経由でシステムへアクセスし、どこからでも同じように業務を行うことができます。 クラウドERPを導入するメリットとして、下記が挙げられます。 1. 低コストでの導入・運用 クラウドERPでは、自社で高価なサーバーや専門要員を確保する必要がありません。月額利用料だけで最新のシステムを使えるため、コスト負担を大きく減らせます。資金力に余裕がない中小企業でも、手軽に本格的な基幹システムを導入できます。 2. 柔軟性・俊敏性の高さ 会社の成長や新しい拠点の追加、業務プロセスの変更など、クラウドERPはその都度すばやく対応できます。システムのカスタマイズや機能追加も、ベンダー側でアップデートできるので「会社の変化に遅れず対応できる」のが特長です。 また、クラウドERPは利用したい範囲・機能からスタートできるので、「一部部門だけ」「小規模で試す」「一気に全社展開」など状況に合わせて段階的な導入が可能な点もメリットです。 3. セキュリティ強化 クラウドERPは、大規模データセンターの冗長化や自動バックアップ等により、災害やシステム障害でも短時間でデータを復旧できます。サイバー攻撃対策や個人情報の取り扱いも国際基準で強化されています。また、システムの更新や、法改正対応も自動で行ってくれるので、常に「最新で安全な状態」を維持できます。自社でのバージョンアップやセキュリティ対策の負担が格段に減ります。 導入事例から学ぶ、クラウドERP導入の成果 1. 中小企業:即効性の業務効率化と経営判断力向上 中小企業は資金・人材の制約でオンプレミスERPの導入が難しかったですが、クラウドERPの普及により予算を抑えつつERPを導入できるようになりました。リアルタイムでの在庫管理や売上データの可視化が経営判断のスピードアップにつながり、現場の負担軽減にも大きく寄与しています。 スリーコール株式会社:紙・Excel中心の財務管理からクラウドERPによる管理に移行したことにより、請求書管理や入金確認が自動化され、経営判断のスピード感が大幅に向上。社員の業務負担が減り、短期間で効果が実感された。 小木曽工業株式会社:SAPクラウドERPを10か月で導入し、工事管理や経理業務が統一されて業務が効率化。リアルタイムの進捗把握により、意思決定の質も改善した。 2. 大企業・グローバル企業:基幹業務統一とガバナンス強化 複数拠点を持つ大企業においては、クラウドERPが全世界の業務基盤を一つにまとめ、情報のリアルタイム共有を実現しています。これにより、従来拠点間でバラバラだった運用や管理を統一し、ガバナンス強化と監査対応力の向上を達成しました。 宮城ヤンマー株式会社:GRANDIT miraimilを採用し、国内外の拠点業務をクラウド上で統合。経営データをグローバルにリアルタイム共有し、経営の透明性やリスク管理を強化した。 株式会社ゼネラルリンク:複数子会社とグループプロジェクトをクラウドERPで管理し、経営管理の効率化とプロジェクトの横断統合を実現した。 3. 現場主導の業務改善によるモチベーション向上 クラウドERPは現場スタッフが自分たちで画面設定や帳票カスタマイズを行えるため、現場主体の業務改善が促進されます。これにより業務現場のニーズに即したシステム運用が可能となり、改革の定着と社員のモチベーション向上につながっています。 株式会社丸江:販売店現場が直接システムをカスタマイズし、店舗運営を効率化。現場の細かな要求を反映させることで運用改善が継続的に進み、社員満足度も上昇した。 株式会社昭栄美術:債権管理や月次決算の効率化を実現し、経営層が即断即決できる環境を整備。データ活用の裾野が広く、現場の業務改善が経営の質向上に直結した。 上記の導入成功事例が示すように、クラウドERPは単なるITツールにとどまらず、経営戦略の中核を担う革新的な経営インフラとしての価値を高めています。 3. クラウドERP市場の最新トレンド クラウドERP市場は今後も高い成長が期待されており、特に2025年から2035年にかけては、日本市場において約20%の年平均成長率(CAGR)が見込まれています。さらに、AIとの融合、ノーコード/ローコード開発やAPI連携、業種特化型ソリューションの拡充といった技術革新により、クラウドERPは今後ますます企業の「進化を加速させる基盤」としての役割を強めていくと予想されています。 1. AI連携による業務自動化・高度化 最新のクラウドERPはAIと連携することで、これまでは人力だった業務がますます自動化・高度化しています。例えば「請求書の自動読み取り」「予算や売上の未来予測」「異常検知」のように、日常の作業負担を削減し、ヒトがより創造的な業務に集中できる体制づくりが可能です。 ERPとAIの連携について詳しく知りたい方はこちら!➤ ERP×AIの組み合わせが企業にもたらすメリットや課題とは? 2. ノーコード/ローコード対応の進展 「ノーコード」「ローコード」とは、専門知識がなくても簡単に操作・カスタマイズできる仕組みです。現場担当者が自分たちで帳票や画面を追加・編集でき、業務の変化にも即対応可能です。DX推進が現場レベルでも加速しています。 3. API活用と他システム連携 クラウドERPは、他の業務システムや外部サービスともAPIを使って簡単につながります。会計や販売管理、ECサイト、物流システムなどとの連携で、「いろんなシステム間でデータを何度も打ち直す手間」が激減します。 4. 業種特化ソリューションの拡大 製造、小売、サービス、医療など、業界ごとに特化したクラウドERPも増えています。業種ごとに必要な機能や法令に最初から対応しているため、導入後すぐに自社の業務にフィットしやすくなっています。 5. 主要クラウドERP製品SAP S/4HANASAP社製品は、企業の財務、製造、サプライチェーン、人事など、あらゆる業務プロセスを統合的に管理できる、業界特化型機能を豊富に備えたクラウド型ERPシステムです。特に大企業・グローバル企業に適した製品であり、導入実績も豊富です。Oracle Fusion Cloud ERPOracle Fusion Cloud ERPは、特に高度な財務会計機能に強みを持つクラウド型ERPシステムです。AIや自動化技術を活用し、グローバル経営の効率化と意思決定の高度化を支援します。 *主要ERP製品について知りたい方はこちら➤ 主要ERP製品徹底比較!導入準備の必携ガイドまとめ 本記事では、オンプレミス型とクラウド型のERPの違いを整理し、クラウド移行のメリット(コスト最適化・柔軟性・自動更新・セキュリティ強化)と、導入事例にみる効果、さらにAI連携やノーコード/ローコード、API連携、業種特化ソリューションといった、最新トレンドを概観しました。クラウドERPは、部門横断の可視化と意思決定の迅速化、拠点・グループ全体での業務統一、現場主導の改善定着に寄与します。自社の業務要件や拡張計画、ガバナンス水準、既存システムとの連携方針を踏まえ、クラウドの特性をどの範囲から活用していくかを設計することが重要です。*ERPの具体的な製品について知りたい方はこちら➤ ERPパッケージとは?業務改革と効率化を実現するERP3大製品を徹底解説!👉 ERP、どれを選べばいい? 主要ERP製品の徹底比較資料を無料配布中!ERPの導入を検討中の方向けに、SAP・Oracleをはじめとする主要製品の機能・特徴・違いを現役コンサルの視点からまとめた資料をご用意しました!クラウド化やグローバル対応など、最新トレンドを踏まえた比較ポイントをカバーしています。情報収集・社内検討にぜひご活用ください!■ 株式会社 Anfiniって?ベストベンチャー100に創業3期目で選出!データドリブン経営戦略の策定からERP導入まで一貫してサポート👉 Anfiniのコンサルティングサービスの詳細はこちら